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静脈の機能

2025.01.16

あなたは重症?下肢静脈瘤の検査と症状の重さ

誰でも「重症」とか「軽症」という言葉は耳にしたことがあると思います。どちらも病状の深刻さを表す表現で、当然「重症」の方が重い状態を指します。それぞれ明確な定義がされているわけではないのですが、一般的には「軽症」は何かしら問題があるけど心配ない状態で、「重症」は命の危険はないものの怪我や病気が重い状態を指し、その先に「重篤」場合によっては命の危険がある状態がきます。

 

ところで、下肢静脈瘤が「重症」というのはどういう状態かご存知ですか? よく用いる分け方としては、皮膚症状があれば重症とすることが多いです。静脈の病気を評価する世界共通の基準として「CEAP分類」というものがありまして、その中の「C」で症状によるクラス分けがされています。簡単に説明するとC0=静脈瘤なし、C1=ごく細い静脈瘤あり、C2=静脈瘤あり、C3=むくみあり、C4=皮膚炎あり、C5−6=皮膚潰瘍となっています。よく私たちが使う感じではC0−3=軽症、C4−6=重症というように、皮膚症状のあるなしが軽症と重症の境目になっています。

 

長々と書いてきましたが、私はこのCEAP分類が好きではありません。なぜかというと、手術をする患者さんの大半がC2に入ってしまうのです。C0〜6まで実に7段階にも分けられているというのは、様々な病気の評価ツールの中でもかなり細い方です。でも、実際に手術を行う患者さんの80%程度はC2に入ってしまうのです。

 

当然ですが、C2の下肢静脈瘤があっても手術を選ばない患者さんも大勢おられます。では、手術をする患者さんと手術をしない患者さんの境界線はどこにあるのでしょう?はっきり言ってしまうとそこに明確な線引きはありません。例えば、高血圧なら「いくつ以上になれば生活指導を始める」「いくつ以上になれば投薬治療を始める」といった線引きがありますし、糖尿病や肝機能などでも同じことが言えます。ポイントは数値化することなんです。「血圧」や「血糖値」「HbA1c」といった分かりやすい数字があることで、客観的に治療の適応を決めることができるのです。

 

下肢静脈瘤でも同じような線引きができないかと、世界中でたくさんの先生方が工夫を凝らしてきました。昔は静脈造影といってとても痛い検査が行われ、今は超音波検査が中心です。超音波検査では、壊れている血管の太さだけではなくて、逆流している範囲や逆流時間、逆流速度、逆流量などいろいろな項目を血管1本ごとに測定することができます。さらにはAPGと呼ぶのですが、足の体積を測ることで足全体の静脈機能・筋ポンプ機能を数値化する検査もあります。

 

それだけあると、どれか一つくらいは絶対的に信頼できる項目がありそうなのですが、なかなか患者さんの症状と結びつかないです。例えば、患者さんが来られると詳細に超音波検査を行っています。超音波検査の結果と患者さんの訴える症状がいつも一致するわけでは無くて、超音波の結果が悪くても症状が無かったり、超音波が良くても症状が強かったりと様々です。病気のあるなしについては正確に判断できるのですが、病気の軽重を正確に評価できる検査はありません。

 

さらに、血管のボコボコの程度も症状と結びつかないことが多いです。ボコボコが大きくて多い方を見かけると、さぞ辛い症状で悩んでいるんじゃないかと心配するのですが、意外と症状は軽いことが多いです(逆の言い方をすると、症状が無いからそれだけボコボコになるまでおいていたってことなのかもしれません)

 

この辺りが下肢静脈瘤治療の難しい点であり、面白い点でもあります。検査に頼ることができなくても、数多くの患者さんと接するうちに症状が強く出る条件や症状が出にくい条件がわかるようになってきました。詳しくは診察の際にお話しできればと思います。

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