側枝を治療するタイミング
実は、「伏在だけの治療を行い側枝を放置した場合、1年で60%の患者で追加治療を要する」という数字を巡っては、さらに深い議論があります。側枝の治療が不要だと主張する先生方は、「もしすべての患者に側枝治療を行ったら、その40%は無駄な処置となる」と主張しています。そして彼らは初回の手術で伏在だけを治療し、数ヶ月の後にもし必要があれば側枝の治療を追加する(段階的治療と呼びます)べきだと提案しています。純粋に医学的なことだけを考えると、正しい主張のように聞こえます。ですが、現実はもっと複雑です。
手術を2回に分けるとどうなる?
側枝治療を諦める患者が増える
段階的治療の問題点がいくつかわかっています。まず、患者さんにとっては複数回の治療は無駄が多いです。日本の医療制度では、「伏在静脈への血管内焼灼術」を行う際に側枝の治療を追加で行っても手術費用は変わりません。ビュッフェのようなもので、1本の脚への1度の手術であれば、どのような複雑な内容であっても側枝への治療を組み合わせても、手術費用は同じです。ですが、日を改めて別の機会に処置を追加すれば、それは別の手術となり別の費用が発生します。患者さんにとっては追加の手術費用に加えて、診察費用、交通費、日程調整など多くの無駄が発生します。結果的には、もし段階的治療を計画した場合、初回の伏在だけの手術の後で、本当は側枝への治療まで希望していた患者さんが、側枝への治療を諦めてしまう例も多数発生してしまいます。
側枝治療の選択肢が狭まる
治療の内容も重要です。伏在治療と同時に側枝治療を行う場合(一期的治療といいます)は側枝への選択肢は豊富です。血管内焼灼術、スタブアヴァルジョン、硬化療法など多彩な選択肢から、側枝の部位や大きさにあわせて適切な方法で治療することが可能です。しかし、段階的治療ではさまざまな理由から硬化療法だけが行われる例がほとんどです。硬化療法では術後の血栓形成・色素沈着が問題となることがあり、患者さんの満足度が低い傾向があります。
側枝治療は難しい
ただし、側枝治療は諸刃の剣でもあります。治療する側からすると、手術時間が伸びる、術後の管理が複雑になる、トラブルの可能性が高くなる、傷跡などがかえって目立つ可能性がある、などの問題があるのです。伏在治療は、デバイスの進化によって、ある程度の知識があれば誰が行ってもある程度安定した成績が期待できます。しかし、側枝治療は、誰がどのように行うかによって結果が大きく変わります。なので、慣れない医師が側枝治療を行うと、その効果よりも副作用の方が目立ってしまうことになります。なんなら、「しない方が良かった」と落胆される例もあるくらいです。そこで、側枝治療を諦めてしまっている医師もたくさんおられます。
それでも、私たち専門家は側枝治療を行います。なぜでしょう? 側枝治療をしなかったら、どのように患者さんに不満が残るかを熟知しているからです。患者さんの満足度や病気の再発を考えるときに、側枝治療が重要であることは事実です。ですので、下肢静脈瘤の治療を専門とする医師のほとんどは伏在静脈との一期的な治療を行います。側枝治療の問題点として、手術時間、副作用などが挙げられるのは事実ですが、それを乗り越えてきたから専門家と呼べるのでは無いでしょうか。
手術時間については、とにかく技術を磨くことしかないと思います。手術をしている際に術者の体内時計は大きく狂います。一生懸命に集中していると、自分では5分くらいに感じているのに、実際は30分経過している、といったことが起こるのです。手術にかかる時間を計算すると、そのほぼ全ては術者が作業をしている時間ですから、しっかりと準備をして技術を磨き、自分自身ができることとできないことを冷静に見極める。自分自身の技量を客観視できるようになれば、側枝治療の結果もついてくるのではないでしょうか。
患者さんも内容を理解してください
側枝治療では、いわゆる「合併症」と呼ぶほどではありませんが、患者さんにとっては不安や不満の原因となるような、「痛み」、「皮下出血」、「しこり」などの副作用がある程度生じます。ここで重要なことは、それらを必要以上に恐れるのではなく、それらを知り尽くしあらかじめ説明することです。もちろん、痛みやしこりなど、無い方がいいです。なので、それらがどうして生じるのか考え、それを減らせるように日々工夫するのが医師の仕事です。ですが、臨床医としては、その努力だけでは不十分です。自分がその作業をしたら、どの程度の確率でどの程度の副作用が生じるかを常に把握し、患者さんに理解してもらうことが重要です。幸い、側枝治療に伴う副作用はいずれも軽くて一時的なものですから、しっかりと説明しておけば問題となることは稀です。
山本 崇
やまもと静脈瘤クリニック




