硬化剤の性質
硬化剤は血管壁の細胞に触れることで、細胞にダメージを与える働きを持っています。そう話すととても怖い薬のように聞こえますが、それは濃度が濃い状態の話で、ある程度薄まるとそういう働きはなくなります。ですから、注射された硬化剤が流れていって、例えば心臓の細胞にダメージを与えたり、脳の細胞にダメージを与えるようなことは起こりません。ですが、逆にいうと、硬化剤が注射した部位の血液に混ざって薄まってしまうと、あっというまに効果が無くなってしまうのです。ですから、治療する部位の血流が多かったり、治療する部位が太かったりすると、硬化療法の効きが悪くなることがあります。
フォーム硬化療法の特徴
そのような、硬化剤が薄まることによる劣化を防ぎ、硬化療法の効力を向上させるアイデアとして生み出されたのが「フォーム硬化療法」です。仕組みは簡単で、硬化剤と気体を1:3~5程度の比率で混ぜ合わせるのです。しっかり混ぜ合わせると泡状になり、その泡を注入します。泡の最大のメリットは、周囲の血液と混ざらないことです。泡が周囲の血液を押し除けてくれるので、硬化剤が薄まらずに血管壁に到達できます。結果的に、液体の硬化療法では治療が難しかった太い血管にも硬化療法が使えるようになりました。フォームの利点は他にもあり、硬化剤の使用量を減らせたり、超音波装置でその流れを見ることができたりします。
おそらく、現在では日本全国で行われる硬化療法のほぼ全てがフォームで行われていると思われます。私も、硬化剤を液体のままで使用することはほぼありません。それくらい、フォームの効果や使いやすさが優れていると言えます。ただし、フォームであっても治療の効力という点ではやはり血管内焼灼術、血管内塞栓術、スタブアヴァルジョンなどには及ばないのが現実です。ですから、少しでも効果の強いフォームを求めて、数多くの取り組みがなされてきました。
最高の泡!
実は硬化療法で用いるフォームの効果を比較することはとても難しいです。本来なら、条件を変えたフォームを同じような状態の複数の患者さんに使い、その効果を比較する必要があります。ですが、実際の患者さんでは、治療結果を左右するような条件がたくさんあり、純粋にフォームの効果だけを比較することはとても難しいのです。なので、ここでは、細かくて長持ちする泡を良い泡と判断すると考えてください。泡の性状に影響を及ぼすような要因はたくさんあります。例えば、用いる気体の種類なら、空気・二酸化炭素・酸素が候補ですし、気体と硬化剤を混ぜるときに使う道具もたくさんあります。その中で、現在有効とされているいくつかの手法について紹介します。
気体の種類
私がフォーム硬化療法を初めて知った時に最も驚いたことは、その強い効果ではありません。なんだと思いますか? 静脈に空気を注入していいの? という疑問でした。動脈であれ静脈であれ、血管の中に空気を入れてはいけない、というのは医学の基本的な常識として教え込まれ、研修医時代から点滴の中に空気が入らないように気をつけてきたからです。一般的には、静脈に注入された空気は右心を通って肺動脈に入り、肺の毛細血管に引っかかります。そこでゆっくりと吸収されて呼吸で排出されます。しかし、中には右心から左心へと血液が漏れている方がおられ、その場合は漏れた空気が脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす可能性があります。この懸念を少しでも払拭するために、様々な気体が使われてきました。最も一般的に使われているのは普通の空気です。化学的には窒素が78%、酸素が20%、アルゴンが1%、その他がまとめて1%といったところです。この窒素は血液に溶けにくい性質があり、血管内に注入されると長期間残存し、先ほど挙げたような問題の原因となります。それを解消するために、空気の代わりに血液への溶解がスムーズな二酸化炭素や酸素を選択する施設もあり、 私もそうしています。ただし、二酸化炭素を使用してフォームを作成すると、フォームの持続時間が大きく損なわれます。そこで、フォームの作り方を工夫する必要が生じます。
フォームの作り方
最初に開発され、そして最も普及しているのは、二つの注射器を使う方法です。注射器に気体と硬化剤を入れ、出し入れを繰り返すことで乱流を生じ、二つが混ざってフォームとなります。一般的にはフォームというとこの方法で作成されたものを指すことがほとんどです。しかし、その方法で作られるフォームは、粒の細かさや持続力の点で問題があり、それがフォーム硬化療法の限界となっていました。それを革命的に進化させたものがVarithenaです。それはフォームを作成するための専用キットで、精密に加工された通路に硬化剤と気体を通すことで、とても細かく持続性の高いフォームを安定して作成できます。Varithenaを用いると、それまでのフォームでは治療できなかったような太い血管などにも安定した効果が実証され、フォーム硬化療法の限界を広げてくれました。他にも、スペインで開発されたVarixioという機械は容器の中に硬化剤と気体を入れて、中で攪拌機を高速回転させることでフォームを作ります。先ほど紹介したVarithenaと同等のフォームが作成できることがわかっており、当クリニックでも採用しています。
少しでも安全で効果の高いフォームを作りたい、というのは硬化療法を始めた時からの願いです。かなり、その理想に近づけたと思っています。
山本 崇
やまもと静脈瘤クリニック




