なぜ立ってもらうのか?
下肢静脈瘤のエコー検査では静脈逆流の評価が重要です。そして、その逆流評価を行うためには脚が下がっている必要があります。脚を下げた状態を作るにはどうするか? 一般的には、ベッドに寝てもらいベッドを傾ける、立つ、腰掛ける、などの方法が思い付きます。ただし、逆流の評価をするためには、脚を圧迫して血流を促す操作(ミルキングって呼びます)が必要で、しかも血管は脚の全周に広がっていますから、全体が見えないといけない。そう考えると、ベッドを傾けるのは現実的ではありません。なので、私たちは患者さんに立ってもらったり、ベッドの端に腰掛けてもらって検査を行います。
座ってても検査できる?
立って行うべきか、座って行うべきかについては、それぞれに利点と欠点があって、絶対にどちらが優れていると断言することはできません。座って行う方が患者さんは楽で安全ですが、体の後ろ側の血管の観察が難しくなります。それに対して、立っている方が、太ももの後ろなどを含めて全体像が確実に観察できます。しかし、筋力などの問題で立つことが危ない患者さんがいたり、立つとどうしても脚の筋肉が硬くなるのでミルキング操作がやりづらくなったり、患者さんの気分不良を生じることがあります。ですから、私のクリニックでは、立った状態の検査と、座った状態の検査を、患者さんによって使い分けています。実際には、足腰が弱っている方やご高齢の方で座った状態での検査を行います。
立位での検査は危ないの?
先ほど、立って検査をすると「気分不良」を生じることがあると書きました。この気分不良はとても不思議な現象です。医学的には起立性低血圧、迷走神経反射、自律神経失調、一般的には立ちくらみと表現されます。
人間の体の中で、血液をどこにどの程度流すかというのは、とても重要なテーマです。例えば手足の血流は動かしている時と止まっている時で大きく変わります。必要な酸素量が大きく変わるからです。さらには、腸の血流も、空腹時と満腹時で大きく変わります。ですが、脳や心臓、肺、肝臓、腎臓といった生命に直結する臓器にはある程度安定した血流が必要となります。ですから、走っている時、歩いている時、立っている時、座っている時、食べている時、寝ている時とその状況にあわせて、血液の流れは微妙なバランスをとってコントロールされていて、その司令塔となるのが自律神経。そして、具体的には心臓の脈拍や収縮力、それぞれの臓器への動脈の太さなどをコントロールすることで、適切な血液配分を実現しています。
その中でも脳は最重要組織に位置付けられていて、基本的にはどのような状況(脱水とか、大量出血とか極端なものも含みます)であっても、脳への血流だけは確保するようになっています。ですが、何かの理由で脳への血液配分が少なくなり、栄養が不足した脳が省エネモードに入ることがあります。突然そうなるわけではなく、数分前から少しずつ予兆が始まり、意識が遠くなっていき、立っていられなくなります。検査をしている側からすると、とても怖い現象です。なので、どういう方でそういった現象が起こるのか、私たちは一生懸命に考えます。普通に考えると、循環機能やその調節能が低下した高齢者や心臓疾患の既往のある方が最も危ないはずです。ですが、実はそういったことが起こるのは、ほぼ体格のいい男性で、なんなら普段から運動の習慣があったりします。
気分が悪くなる人の特徴
とても不思議に感じますが、検査で立っている時間はせいぜい10分間です。もしかしたら駅で電車を待っている時間より短いくらいです。なので、体力的にその時間で気分が悪くなる方はほとんどいないはずです。逆にいうと、心理面(不安とか、恐怖とか)も自律神経に影響を及ぼすことが知られており、もしかすると普段は病院に行く習慣が無い健康な男性の方が検査に不安を感じやすいのかもしれません。そう思って、検査を絶対に恐れていない健康で体格のいい男性で実験を行いました。誰でしょう?私です。でも、少し気分が悪くなりました・・・。恐怖心だけが原因では無いようです。みなさん、疑ってごめんなさい。
山本 崇
やまもと静脈瘤クリニック




